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第3話 「味のしみた煮物」

20161129

マスター、ごめんね~。来週体育館の定期検査があるんだけど、コンクリートにひびもあったりしてねぇ。場合によっては補修工事が入るかもしれないんだ。するとしばらく使えない施設が出ちゃうかもしれなくてねぇ。みなさんにホント申し訳ないよ。

沢辺さん、いらっしゃませ! まぁまぁ、そんなに汗をかいて、まずはお座りください!

いらっしゃませ、沢辺さん。冷たい生ビールからにしますか

うん、ホント申し訳ない、、

何言っているんですか沢辺さん! マスター生一丁!

ぐはー、汗かいたからビールがうまいや! 秋とは名ばかりだねぇ。

沢辺さん、定期検査って3年に1回の建物検査のことですか

マスターの建物豆知識

建物の定期検査とは?

不特定多数の人が利用する特殊建築物等については、大きな事故や災害を未然に防ぐため、構造物の耐久性、避難設備の状態、建築設備の作動状況などを調査します。建築物等の安全性や適法性を確保するために、建築基準法では専門の技術者により定期的に調査・検査し、特定行政庁に報告することを求めています。

そうだよ。なるたけみなさんには休みなく使ってもらいたいけど、検査だけすればいいってもんじゃないしね。安心して使ってもらうには施設の補修も大事だし、管理部長としては悩みどころだよ。

沢辺さん、ここのところお忙しそうですもんね。台風の翌日なんか朝一番に一人で体育館の周りを点検していたって、ウチの常連さんが言っていましたよ

よせやい、照れちゃうよ! ところで今日は色んな煮物が並んでいるねぇ

煮物にするとおいしい秋の野菜がそろってきていますからね。収穫の秋です

じゃあ、そのシイタケと人参と高野豆腐の煮物をください

はい、お待ちどうさま。高野豆腐、味がしみていておいしいですよ!

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うん、こりゃおいしいね! あっちの里芋とイカの煮物ももらおうかな

はい、どうぞ! 里芋はもっちりと中まで味が染みているのにイカはやわらかく煮あがっていて最高です!

あれっ、波ちゃん一通りつまみ喰いしているんじゃないの?

お客様に正確な情報をお伝えしないといけませんからねー!

いいねぇー、それも仕事のうちってか! しかしマスターは大変だね。夜も遅いっていうのに

はい。煮物は火にかけてやわらかくなった食材に出汁や調味料で味を付けるわけですが、ゆっくりていねいに冷ますことでより味が染みるんです。野菜などの食材に含まれている水分は火にかけると膨張し食材の細胞を押し広げます。そして冷めるときにゆるんだ細胞の間から味がしみていくので、その時間を十分に取ることが大切なんですよ。さらに味がよくしみこむのは高い温度の時なので、時間をかけるだけではなく、ゆっくりと冷ますことも大事です。煮物の種類にもよりますが、朝から仕込んでお客様のいらっしゃる夕方にちょうどよい頃合いとなるように調理しています

なるほど、煮物ひとつとっても意外と科学的なんだね

冷ますときに落し蓋を使うのも大切です。落し蓋をしないで冷ましていくと、上部は乾燥が早まり、下部は煮汁に浸かったまま高温ということで均一に冷めていきません。そうすると味にムラができてしまうんです

料理にもいろいろ工夫があるんだね。僕らは食べるだけだから気楽なもんだけど

沢辺さんだって、私たちが安心してプールやジムに通えるように工夫してくださっているじゃないですか

いや、あははは、そうだったかな、てへへ!

先ほどおっしゃっていたコンクリートのひび割れ、補修工事をなさるんですね

うん、建物にひび割れだなんて言われた時はびっくりしたけど、実はそんなに心配することでもないんだって

それは良かったですね。コンクリートの構造物には多かれ少なかれひび割れはできるものなんです。コンクリートはセメントに水と砂と砂利を混ぜたものですが、固まるのはセメントと水が化学反応(水和反応)を起こすからなんです。その反応は熱(水和熱)を伴うので、セメントと水(=セメントペースト)だけだと内部に熱がたまり、場合によっては100℃以上の高温なることもあります。そうすると外気にあたる表面と内部の温度差が大きくなり、大きなひび割れなどの原因となるんですね。そこで骨材と呼ばれる砂利や砂を入れてセメントの量を減らし全体の発熱量を抑えているんですよ

そうか、さっきの煮物とは理屈は違うけど、固まるときや冷めるときの極端な温度差は品質の低下につながるってことですね!

なんでも極端はだめなんだなぁ。

コンクリートがセメントの水和反応で固まった後も、多少の水分がコンクリートの内部には残ります。その水分が時間の経過とともに蒸発するとコンクリートは収縮しひび割れの原因となるんです。このような乾燥による収縮や水和熱など、内部のひずみが原因のひび割れは多少はやむを得ないところもあるんです。そういう小さなひび割れは、伸縮性があって引張強度の高い樹脂で表面をおおって補強したりしますね。

ちゃんと補修すれば心配することは無いんだね

その通りです。しかし、ひび割れ幅が大きい場合は樹脂やセメントをひび割れに圧力をかけて注入し、内部の鉄筋がサビないようにする処置も必要になってきます。さらに大きなひび割れや地震など外部からの負荷により出来たひび割れは、構造物の鋼性や強度の劣化を伴っている事が考えられます。そのような場合はより専門的な技術を持つ業者に相談すべきです

なるほど、それも利用者みなさんの安心のためだ!

はい、さすが沢辺さんです。あとこれは建物を作るときの話となりますが、コンクリートを練り混ぜるときは空気も一緒に練り込まれちゃうんです。その空気が固まったあとのコンクリートにたくさんの小さなすきま(空隙・くうげき)を作り、そこに水和反応で取り残された水分が残ると、蒸発するとき、微細なひび割れの原因となります。だからコンクリートを混ぜるときに余分な水を加えてはいけないんですね。しかしコンクリートを柔らかくし扱いやすくするために、打設の現場で水を加えてしまうことがあるそうです。絶対にやってはいけないんですけど

マスター、それ私に言ってます!?

えっ、どういうこと?

ははは! 沢辺さん、先日茶碗蒸しの作り方を波ちゃんに教えたんです。茶碗蒸しもちょっと理屈は違いますが、蒸すときの温度や材料の水加減が大切なんです。あまり高い温度で蒸すと卵のたんぱく質が一気に固まり材料の水分も気化するので、気泡の多い“す”が立った茶碗蒸しになっちゃうんです。そうするとなめらかな食感が失われてしまいますね

なるほど

逆にだし巻き卵をふわっと焼くときは強火のフライパンに卵液を流し込みます。ジュワっと細かい気泡がたくさん出来て柔らかく仕上がります

ますます科学的だねぇ

そうなんです。材料の特性を知って適切に施工・調理することが大切なんです

だから波ちゃんは味見・つまみ食い専門なんだね!

もーっ!沢辺さんには今後大盛サービスはしませんよ!

あはは、ごめんごめん!生ビールの大盛お願い!

マスター、大生一丁!


(帰り道)

科学的かぁ。よし!俺は利用者みなさんのことを考えて科学的なことは業者にまかせよう。そん時はマスターに相談だ!


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(正確な情報を伝えるためのつまみ食い、波ちゃんいいこと言っていたな。沢辺さんには伝わったと思うよ)

<第3話 完>

※本ストーリーはフィクションであり、実在の人物・団体との関係ありません。

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